HRM(人的資源管理)研究者の Oxford 滞在記(2020-2022)

1年目は配偶者同行で休業して渡英。2年目はサバティカルで渡英。日常的な出来事(とたぶん研究)の記録です。英語は練習のために書いているので,ミスが多々あります。ご了承ください。

DAY506 [渡英452日] 2021年8月19日(木):打ち合わせ3,「パクリ」と「閃き」

 今日は朝9:00から打ち合わせがあるため,いつもより少し早く息子をアクティブ・キャンプに送り出し,急いで帰宅。打ち合わせは14:00近くまで続き,ヘトヘトになったが,得るものも大きく,色々と勉強になった。打ち合わせが終了後,簡単なオンライン飲み会を実施。同時に音が拾えないのが難点だが,色々な話が出来てよかった。

 

 ーーーー以下は個人の主観ですーーーー

 閑話休題。最近,webを観ているとパクリと閃きは紙一重だと感じる。オリンピックのエンブレム問題もそうだし,アニメやアプリのパクリも当事者に言わせてみればパクリではなく,「閃き」もしくは「インスピレーション」となる。過去に目にしたものを無意識のうちに参考にしてしまうということなのだろう。

 

 研究ももちろん完全なパクリは盗作なのでダメだけど,では海外論文の枠組みを「in Japan」でしてみたいとか,論文で書かれているfor future researchを読んでデータを集めて論文を書くことはパクリなのか?というとそうでもない。むしろその研究心は褒められるべきだと思う。ただ,あまり海外の理論の紹介のみとなると「輸入学問」とか「研究力がない」というレッテルを貼られるかもしれない。他方で,世の中的にみるとそうした裏の事情(悩み?)を知る人は業界の人間で限られているから,事情を知らない大多数の人にとって「この人は何やら(日本で)新しい研究をしている」ということでもてはやされる。もちろん,そのアンテナを張る力,それを成果に結びつける力は素晴らしい。でも,そうなると海外の学会参加はある意味,「ネタ探しの場」となってしまうし,先行者利益でいかに「第一人者」になることに躍起になってしまう。

 師匠(もしくは自分)が海外学会で目をつけた新しいアイデアを用いて一本足打法で研究を深堀することは,一見すると博士号取得の近道にも見える。思えば自分もそうだったかもしれない。それにもし世の中のニーズという需給が合致すると,とてつもない爆発力で一挙に「実力派」研究者になることがあるかもしれない。

 しかし,長期的に見た場合にどうなのだろうか。一本足打法のテーマを深堀していくと,メリットとしては,そのテーマの第一人者になることができる。ただ,デメリットとして世の中のニーズと合致しなくなると,見向きもされなくなる可能性があるかもしれないし,何よりも他の隣接領域への知識が浅くなるように感じている。博士課程の研究テーマは紆余曲折しながら,徐々に設定されていくことで自分の研究領域を俯瞰できるような「地図」を頭の中に創ることができるし,色々と対応できるように思う。「急がば回れ」なのかもしれないし,それが奉職(大学の先生になること)した後の研究者として「賞味期限」に影響するのかもしれない(これで論文が書けそうな気がする)。

  しかも,このパクリと閃きの微妙な線を使って飯のネタにしている人も増えてきている。学会発表で発表した若手研究者の内容をコンサルが,あたかも自分のネタのように話す輩が目に付くようになってきたように思う。

 私は,実務の世界と学術の世界は車輪の両輪であると思う一方,そこには著しいギャップがあるという立場である( 例えば, Rynes, Brown, & Colbert(2002)) 。近年は社会人大学院生も増えてきているし,現場に関与する研究者も増えてきているのでギャップは小さくなっているように思える。この両者を溝をつないで「翻訳」しているのが,コンサルであるというのが私の認識なので,それを利用して実務家が食いつきそうなネタを学会で探す,もしくは,自社のツールを「権威付け」するために学会発表が利用されているように感じることがある。

 

*Rynes, S. L., Brown, K. G., & Colbert, A. E. (2002). Seven common misconceptions about human resource practices: Research findings versus practitioner beliefs. Academy of Management Perspectives, 16(3), 92-103. Academy of Management Executive, 16(3), 92-103.


<今週したいリスト>
(1)打ち合わせ3本 ●●●
(2)論文の精読
(3)原稿提出 ●
(4)質問票設計 ■
(5)1章執筆